■円安効果、限定的の見方も

 日本銀行は「マイナス金利政策」の導入で、市場の金利水準が下がることなどを通じ、企業や個人が借り入れを増やし、投資や消費が拡大する、と期待する。「経済を上向かせ、賃金が上がり物価も上がる好循環にしていく」。黒田東彦(はるひこ)総裁は4日、国会で新政策の狙いをこう説明した。

 だが、金利はすでに歴史的な低水準になっており、さらに下げても投資や消費はそれほど増えない、とみる専門家は少なくない。

 ただ、新政策が円相場を円安に動かす方向に働く、という点に異論はほとんどない。投資家が金利が低くもうけにくい円を売り、ドルなど金利が高い通貨を買うと予想されるためだ。

 円安が進めば輸入する原材料などの値段が上がり、国内の物価も上がりやすくなる。日銀が目指す「前年比2%」の物価上昇目標の達成にもプラスだ。日本企業の海外での稼ぎが円建てで膨らんで業績が良くなり、設備投資や賃上げにつながるかも知れない。

 実際、欧州中央銀行(ECB)が2014年6月にマイナス金利政策を導入した後、ユーロ相場は対ドルで安くなった。日銀は「マイナス金利政策で通貨安を狙っていない」と説明するが、日銀の真の狙いは円安、とみる専門家も多い。

 ところが、新政策の導入決定直後にいったん円安が進んだ円相場は、足もとでは決定前より円高に振れている。米国景気の先行き不安や中国経済の減速懸念、原油安など、世界経済には不安材料が多く、比較的安全な資産とされる円が買われやすくなっており、新政策の効果も限定的との見方が広がっている。

 ■財政、日銀頼み加速

 マイナス金利政策で国債の金利が下がれば、予算の3分の1を国債でまかなう政府にとっては、より低い金利でお金を借りられる利点がある。国の借金の残高は1年で26兆円増え、2016年度末には838兆円に達する見通し。長期金利が財務省の想定より1%幅下がると、支払う利子は1年間に1兆円規模で減る関係にあるという。

 ふつうは国債の金利が一定程度まで下がると、投資のうまみが減って買い手も減るはずだ。だが、日銀は金融緩和策として、金融機関にとって有利な条件で国債をどんどん買い取っているので、金融機関が金利の低い国債を仕入れても、日銀に売れば必ずもうけられる構図になっている。この構図は、マイナス金利政策の導入後も続きそうだ。

 ただ、ほぼゼロの金利で政府が借金できるとなると、政府の支出を減らす取り組みがおろそかになり、将来世代にツケを回すことにもつながりかねない。

 財務省は3日、10年物の「新型窓口販売国債」の販売中止を決定。財務省に払う手数料分を含めると実質的にマイナス金利となるため、買い手が見当たらないからだ。販売中止は一部の国債にとどまるが、財務省内には「金利が安定せず、市場に不安感が広まれば国債の買い控えにつながる」と心配する声もある。

 いまは日銀の金融緩和策で国債の金利を低く抑えているが、日銀の狙い通りに物価が2%も上がるようになれば、緩和策をやめる時が来る。段階的に金利を上げようとしても、日銀頼みに慣れ切った国債市場では売り買いが円滑に進まず、金利が急に上がるリスクもあるという。

 マイナス金利政策が導入されることで「金融を正常化させるのはさらに難しくなった」と、東短リサーチの加藤出(いずる)氏は話す。(津阪直樹、石橋亮介)

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 「マイナス金利政策」はこれで終わります。次のテーマは、昨年の国連気候変動会議(COP21)で採択された「パリ協定」です。

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